伊藤左千夫
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タイトル: 奈々子出版社: ConTenDo概要: 其日の朝であつた、自分は少し常より寢過して目を覺すと、子供達の寢床は皆殼になつてゐた。 自分が嗽に立つて臺所へ出た時、奈々子は姉なるものゝ大人下駄を穿いて、外とへ出ようとする處であつた。 凉爐の火に煙草を喫つてゐて、自分と等しく奈々子の後姿を見送つた妻は、 『奈々ちやんはねあなた......商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 水害雑録出版社: ConTenDo概要: 一 臆病者といふのは、勇氣の無い奴に限るものと思つて居つたのは誤りであつた。 人間は無事を希ふの念の強よければ、其の強いだけそれだけ臆病になるものである。 人間は誰とて無事を希ふの念の無いものは無い筈であるが、身に多くの係累者を持つた者、殊に手足まとひの幼少者などある身には、......商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 竹の里人 一出版社: ConTenDo概要: 同人が各自、種々なる方面より見たる故先生をあらはさむことにつとむ 考へて見ると實に昔が戀しい、明治三十三年の一月然かも二日の日から往き始めた予は、其以前の事は勿論知らぬのであるが、予が往き始めた頃はまだ頗る元氣があつたもので、食物は菓物を尤も好まれたは人も知つてゐるが、甘い... (本文冒...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 春の潮出版社: ConTenDo概要: 一 隣の家から嫁の荷物が運び返されて三日目だ。 省作は養子にいった家を出てのっそり戻ってきた。 婚礼をしてまだ三月と十日ばかりにしかならない。 省作も何となし気が咎めてか、浮かない顔をして、わが家の門をくぐったのである。 家の人たちは山林の下刈りにいったとかで...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 古代之少女出版社: ConTenDo概要: 一 かこひ内の、砂地の桑畑は、其畝々に溜つてる桑の落葉が未だ落ちた許りに黄に潤うて居るのである。 俄に寒さを増した初冬の趣は、一層物思ひある人の眼をひく。 南から東へ「カネ」の手に結ひ廻した垣根は、一風變つた南天の生垣だ。 赤い實の房が十房も二十房も、いづれも同じ樣に垂れ....商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 八幡の森出版社: ConTenDo概要: 市川の宿も通り越し、これから八幡といふ所、天竺木綿の大きな國旗二つを往來の上に交扠して、其中央に祝凱旋と大書した更紗の額が掛つてゐる、それをくゞると右側の屑屋の家では、最早あかりがついて障子がぼんやり赤い、其隣りでは表の障子一枚あけてあるので座敷に釣つてあるランプがキラリと光を放... ...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 市川の桃花出版社: ConTenDo概要: 停車場で釣錢と往復切符と一所に市川桃林案内と云ふ紙を貰つて汽車へのツタ、ポカ/\暖い日であつたから三等車はこみ合つて暑かつたが二等車では謠本を廣げて首をふつて居る髯を見うけた。 市川で下りて人の跡へ付いて三丁程歩くと直ぐ其處が桃林だ、不規則な道はついて居るが人を入れまいとしつらへ... ...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 茶の湯の手帳出版社: ConTenDo概要: 一 茶の湯の趣味を、真に共に楽むべき友人が、只の一人でもよいからほしい、絵を楽む人歌を楽む人俳句を楽む人、其他種々なことを楽む人、世間にいくらでもあるが、真に茶を楽む人は実に少ない。 絵や歌や俳句やで友を得るは何でもないが、茶の同趣味者に至っては遂に一人を得るに六つか... ...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 紅黄録出版社: ConTenDo概要: 成東の停車場をおりて、町形をした家並みを出ると、なつかしい故郷の村が目の前に見える。 十町ばかり一目に見渡す青田のたんぼの中を、まっすぐに通った県道、その取付きの一構え、わが生家の森の木間から変わりなき家倉の屋根が見えて心も落ちついた。 秋近き空の色、照りつける三時過ぎの強き......商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 去年出版社: ConTenDo概要: 一 君は僕を誤解している。 たしかに君は僕の大部分を解していてくれない。 こんどのお手紙も、その友情は身にしみてありがたく拝読した。 君が僕に対する切実な友情を露ほども疑わないにもかかわらず、君が僕を解しておらぬのは事実だ。 こういうからとて、僕は君に対しまたこ...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 河口湖出版社: ConTenDo概要: 段ばしごがギチギチ音がする。 まもなくふすまがあく。 茶盆をふすまの片辺へおいて、すこぶるていねいにおじぎをした女は宿の娘らしい。 霜枯れのしずかなこのごろ、空もしぐれもようで湖水の水はいよいよおちついて見える。 しばらく客というもののなかったような宿のさびしさ。 娘は茶をつ...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 隣の嫁出版社: ConTenDo概要: 一 「満蔵満蔵、省作省作、そとはまっぴかりだよ。 さあさあ起きるだ起きるだ。 向こうや隣でや、もう一仕事したころだわ。 こん天気のえいのん朝寝していてどうするだい。 省作省作、さあさあ」 表座敷の雨戸をがらがらあけながら、例のむずかしやの姉がどなるのである。 省作...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 水害雑録出版社: ConTenDo概要: 一 臆病者というのは、勇気の無い奴に限るものと思っておったのは誤りであった。 人間は無事をこいねがうの念の強ければ、その強いだけそれだけ臆病になるものである。 人間は誰とて無事をこいねがうの念の無いものは無い筈であるが、身に多くの係累者を持った者、殊に手足まとい......商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 浜菊出版社: ConTenDo概要: 汽車がとまる。 瓦斯燈に「かしはざき」と書いた仮名文字が読める。 予は下車の用意を急ぐ。 三四人の駅夫が駅の名を呼ぶでもなく、只歩いて通る。 靴の音トツトツと只歩いて通る。 乗客は各自に車扉を開いて降りる。 日和下駄カラカラと予の先きに三人の女客が歩き出した。 男らしい客...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 野菊の墓出版社: ConTenDo概要: 後の月という時分が来ると、どうも思わずには居られない。 幼い訣とは思うが何分にも忘れることが出来ない。 もはや十年余も過去った昔のことであるから、細かい事実は多くは覚えて居ないけれど、心持だけは今なお昨日の如く、その時の事を考えてると、全く当時の心持に立ち返って、涙が留めどなく湧く......商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 奈々子出版社: ConTenDo概要: その日の朝であった、自分は少し常より寝過ごして目を覚ますと、子供たちの寝床は皆からになっていた。 自分が嗽に立って台所へ出た時、奈々子は姉なるものの大人下駄をはいて、外へ出ようとするところであった。 焜炉の火に煙草をすっていて、自分と等しく奈々子の後ろ姿を見送った妻は、 「奈々ち......商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 守の家出版社: ConTenDo概要: 実際は自分が何歳の時の事であったか、自分でそれを覚えて居たのではなかった。 自分が四つの年の暮であったということは、後に母や姉から聞いての記憶であるらしい。 煤掃きも済み餅搗きも終えて、家の中も庭のまわりも広々と綺麗になったのが、気も浮立つ程嬉しかった。 「もう三つ寝ると正....商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 姪子出版社: ConTenDo概要: 麦搗も荒ましになったし、一番草も今日でお終いだから、おとッつぁん、熱いのに御苦労だけっと、鎌を二三丁買ってきてくるっだいな、此熱い盛りに山の夏刈もやりたいし、畔草も刈っねばなんねい……山刈りを一丁に草刈りを二丁許り、何処の鍛冶屋でもえいからって。 おやじがこういうもんだから... ...商品価格: ¥0(税込)