北条民雄
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タイトル: 無題Ⅱ出版社: ConTenDo概要: この部屋には東と北とに窓がある。しかしそれはずつと天上に近い上の方にあるので、太陽の光線は朝の間にほんのちよつと流れ込んで来るだけで、あとは一日中陰気な、物淋しい、薄暗い部屋だ。おまけにこの部屋は動物小屋の内部にあつて、すぐ壁一つ向うの土間続きには、猿や、モルモットや、家兎や、山羊や、二十日鼠...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 無題Ⅰ出版社: ConTenDo概要: 太陽はもう山の向うに落ちてしまつたが、まだあたりは明るかつた。 さつきから余念もなくざぶざぶと除草器を押してゐた仁作は、東手の畦につくと、ほつと一息ついて立停つた。さすがに、体はもうぐつたりと疲れ切つてゐた。彼は水田の中に立つたまま、腰から煙管を取り出して一服つけながら、ずつと遠くまで続いた...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 独語 ――癩文学といふこと――出版社: ConTenDo概要: 昨日MTLで「療養所文芸の発展策その他」について書いた諸氏のものも拝見し、また原田嘉悦氏の雑記をも読んでみた。 原田氏は僕の言葉を引用してあるのだが、まあそのやうなことはどうでもよいことであるかも知れない。 しかしあれは「自殺志願者」に贈るために書かれたもので、おまけに僕も引......商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 精神のへど ――手帳より――出版社: ConTenDo概要: 「兄弟よ。 汝は軽蔑といふ言葉を知つてゐるか? 汝を軽蔑する者に対しても公正であれといふ、公正さの苦悩を知つてゐるか?」 諸君よ、諸君にこのニイチェの苦悩が判るか? 過去幾千年の屈辱の歴史が、諸君の心臓を掻きむしりはしないか。 諸君の心臓は破れはしないのか。 諸君はまだ青空....商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 可愛いポール出版社: ConTenDo概要: ミコちゃんの小犬は、ほんとうに可愛いものです。 丸々と太った体には、綿のように柔かい毛がふかふかと生えています。 名前はポールと言います。 これはミコちゃんが、三日も考えてつけたのでした。 ポールと言うのは、フランスの美しいお歌を作る先生のお名前です。 ミコちゃんはポールが大....商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 一九三六年回顧出版社: ConTenDo概要: 一九三六年回顧 北條民雄 ここ十日ばかりといふもの、何もせずにぼんやりと机の前に坐つて暮してゐる。 一年の疲れが出て来たのかといふと、さうでもなく、ただなんとなくぼんやりしてゐる次第なのだ。 今年の仕事がどうにか終つたのでほつとしてゐるせゐもあるが、まあとにかくここまでやつ......商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 癩院記録出版社: ConTenDo概要: 入院すると、子供を除いて他は誰でも一週間乃至二週間ぐらゐを収容病室で暮さなければならない。 そこで病歴が調べられたり、余病の有無などを検査されたりした後、初めて普通の病舎に移り住むのであるが、この収容病室の日々が、入院後最も暗鬱な退屈な時であらう。 舎へ移つてしまふと、いよいよこれ......商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 発病した頃出版社: ConTenDo概要: 胸までつかる深い湯の中で腕を組んで、私は長い間陶然としてゐた。 ひどく良い気持だつた。 外は凩が吹いて寒い夜だつたが、私は温かい湯に全身を包まれてゐるので、のびのびとした心持であつた。 私は結婚したばかりのまだ十八にしかならない妻のことを考へてゐたのである。 春になつたら、田植時まで...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 発病出版社: ConTenDo概要: いつたいに慢性病はどの病気でも春先から梅雨期へかけて最も悪化する傾向がある。 結核などはその著しい例であらうと思ふが、癩もやはりさうで、この頃になるとそれまで抜けなかつた頭髪が急に抜け始めたり、視力が弱つて眼がだんだんかすんだり充血したりする。 私もこの春突然充血した眼が、いまだに......商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 断想出版社: ConTenDo概要: 自殺を覚悟するとみな一種の狂人か、放心状態に陥る。 これが僕には不快なんだ。 ただただ不快なんだ。 さういふ状態になつて自殺するのは決して自殺とは言へないんだ。 それは殺されたのだ。 病気に、運命に、殺されたのだ。 僕は自殺を希んでゐるけれど、殺されるのは断じて嫌だ。 僕は自殺...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 続癩院記録出版社: ConTenDo概要: 十個の重病室があり、各室五名づつの附添夫が重病人の世話をしてゐることはさきに記したが、これらの附添夫も勿論病人であり、何時どのやうな病勢の変化があるか解らない。 そこでこれらの附添夫――附添本官と呼ぶ――が神経痛をおこしたり肋膜炎にやられたりすると、健康舎から臨時附添に出なければ... ...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 孤独のことなど出版社: ConTenDo概要: 美しいものは一番危つかしい。 一番こはれやすい。 その上一番終末的でさへあります。 だから美しいゆゑに切ないものは、一番毅然とせねばならない。 一歩どちらかへぐらつけばそれは忽ち甘くなるか、又は感傷になる――これは保田與重郎氏が川端康成氏の芸術を評した時の言葉であるが、私はこの一文....商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 書けない原稿出版社: ConTenDo概要: 書けない原稿 北條民雄 今日は二月の二十七日だ。 夕方から雨が降り出して、夜になるとますます激しくなつて、机の前に坐つてゐると、びしよびしよと雨だれが聴えて来る。 時々風が吹いて、どこか遠くの方で潮鳴りでもしてゐるやうな工合でひどく憂鬱だ。 雨の音といふものは妙に淋しくなるも....商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 井の中の正月の感想出版社: ConTenDo概要: 諸君は井戸の中の蛙だと、癩者に向つて断定した男が近頃現れた。 勿論このやうな言葉は取り上げるに足るまい。 かやうな言葉を吐き得る頭脳といふものがあまり上等なものでないといふことはも早や説明の要もない。 しかし乍ら、かかる言葉を聞く度に私は、かつていつたニイチェのなげきが身にしみる。 ...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 赤い斑紋出版社: ConTenDo概要: 赤い斑紋 北條民雄 都美は、このごろ、夕暮になると、その少年に逢ひに行くのが、癖になつて、少年に逢はない日は、ホツケスに逢ふのも、嫌になつてしまつた。 もともとホツケスが嫌ひではないのだが、西と東の感情の相違のために、その抱擁に全身をもつて、飛び込むには今一歩といふ心の焦... ...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: すみれ出版社: ConTenDo概要: 昼でも暗いような深い山奥で、音吉じいさんは暮して居りました。 三年ばかり前に、おばあさんが亡くなったので、じいさんはたった一人ぼっちでした。 じいさんには今年二十になる息子が、一人ありますけれども、遠く離れた町へ働きに出て居りますので、時々手紙の便りがあるくらいなもので、顔を見るこ......商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 外に出た友出版社: ConTenDo概要: 「二三年、娑婆の風にあたつて来るよ。」 退院するY――を見送つて行くと、門口のところで彼はさう言つて私の手を握つた。 「うん、体、大切にしろ、な。」 と言つて、私はYの手を握りかへしてやつた。 それ以上は何も言ふことがなかつた。 手を放すとYは柊の垣に沿つて駅の方へ歩いて行....商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: いのちの初夜出版社: ConTenDo概要: 駅を出て二十分ほども雑木林の中を歩くともう病院の生垣が見え始めるが、それでもその間には谷のように低まった処や、小高い山のだらだら坂などがあって人家らしいものは一軒も見当たらなかった。 東京からわずか二十マイルそこそこの処であるが、奥山へはいったような静けさと、人里離れた気配があっ... ...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 眼帯記出版社: ConTenDo概要: ある朝、眼をさましてみると、何が重たいものが眼玉の上に載せられているような感じがして、球を左右に動かせると、瞼の中でひどい鈍痛がする。 私は思いあたることがあったので、はっとして眼を開いてみたが、ものの十秒と開いていることができなかった。 曇った朝、まだ早くだったので、光線は柔らか......商品価格: ¥0(税込)