薄田泣菫
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タイトル: 茶話 01 大正四(一九一五)年出版社: ConTenDo概要: 茶話 2・27 フランク・ハリスと云へば聞えた英国の文芸家だが、(ハリスを英人だと言へば或は憤り出すかも知れない、生れは愛蘭で今は亜米利加にゐるが、自分では巴里人の積りでゐるらしいから)今度の戦争について、持前の皮肉な調子で、「独逸は屹度最後の独逸人となるまで戦ふだらう... ...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 旋風出版社: ConTenDo概要: 秋篠寺を出て、南へとぼとぼと西大寺村へ下つて來ると、午過ぎの太陽が、容赦もなく照りつけるので、急にくらくらと眩暈がしさうになつて來た。 それに朝夙くから午過ぎの今時分まで何一つ口へ入れるではなし、矢鱈に歩き通しに歩いたので、腹が空いて力が無くなるし、足は貼りつけられたやうに重くる... ...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 西大寺の伎芸天女出版社: ConTenDo概要: 私は西大寺をたづねて、一わたり愛染堂の寶物を見終つた。 「寶物はもうこれでお終ひどす。」 と、ぶつきら棒に言ひすてたまま、年つ喰ひの、ちんちくりんな西大寺の小僧は、先へ立つてさつと廊下へ出掛けて行つたが、つとまた後がへりをして、 「あ、忘れとりました。 此處におゐでやすのが......商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 久米の仙人出版社: ConTenDo概要: 私がじめじめした雜木の下路を通りながら、久米寺の境内へ入つて來たのは、午後の四時頃であつた。 善無畏が留錫中初めて建てたといふ、恰好のいい多寶塔をちらと振仰ぎながら、私は仙人堂へ急いだ。 久米仙人の木像を見ようといふのだ。 仙人は埃だらけの堂のなかで、相變らず婦人でも抱かうとす....商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 喜光寺出版社: ConTenDo概要: 佐紀の村外れから、郡山街道について南へ下ると、路の右手に當つて、熟れかかつた麥の穗並の上に、ぬつとした喜光寺の屋根が見える。 立停つて疲れたやうな屋根の勾配を見てゐると、これまでの旅につひぞ覺えのない寂しい心持になつて來る、どうしたといふのであらう。 ――今朝奈良を發つて、枚......商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 飛鳥寺出版社: ConTenDo概要: 私が飛鳥の里に來たのは、秋も半ばを過ぎて、そこらの雜木林は金のやうに黄いろく光つてゐた。 つい門先の地面を仕切つた、猫の額ほどの畑には、蕎麥の花が白くこぼれてゐた。 纖細な、薄紅い鷽の脛のやうな莖が裾をからげたままで、寒さうに立つてゐる。 程近い飛鳥神社の木立は、まばらに透いて見え、....商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 青磁の皿出版社: ConTenDo概要: 故人小杉榲邨博士の遺族から売りに出した正倉院の御物が世間を騒がせてゐるが、同院が東大寺所管時代の取締がいかにぞんざいであつたかを知るものは、かうした御物が小杉博士の遺族から持ち出されたといつて、単にそれだけで博士を疑ふのはまだ早いやうに思はれる。 むかし鴻池家に名代の青磁の... ...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 贋物出版社: ConTenDo概要: 村井吉兵衛が伊達家の入札で幾万円とかの骨董物を買込んだといふ噂を伝へ聞いた男が、 「幾ら名器だつて何万円は高過ぎよう。 それにそんな物を唯一つ買つたところで、他の持合せと調和が出来なからうぢやないか。」 といふと、吉兵衛は女と金の事しか考へた事のない頭を、勿体ぶつて一寸掉つて... ...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: まんりやう出版社: ConTenDo概要: まんりやう 薄田泣菫 夕方ふと見ると、植込の湿つぼい木かげで、真赤なまんりやうの実が、かすかに揺れてゐる。 寒い冬を越し、年を越しても、まだ落ちないでゐるのだ。 小鳥の眼のやうな、つぶらな赤い実が揺れ、厚ぼつたい葉が揺れ、茎が揺れ、そしてまた私の心が微かに揺れてゐる…......商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 詩集の後に出版社: ConTenDo概要: 私が第一詩集暮笛集を出版したのは、明治三十二年でしたが、初めて自分の作品を世間に公表しましたのは、確か明治二十九年か三十年の春で、丁酉文社から出してゐた『新著月刊』といふ文藝雜誌に投稿したのだつたと思ひます。 丁酉文社といふのは、島村抱月、後藤宙外その他二三氏の結社で、事務所は東... ...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 名文句出版社: ConTenDo概要: 名文句 薄田泣菫 米国のボストンにペン先の製造業者がある。 数多い同業者を圧倒して、店のペン先を売り弘めようとするには、何でも広告を利用する外には良い方法が無かつた。 で、一千弗の懸賞附で、ペンに関する独創的な名文句を募集する事に定めた。 懸賞附の広告が発表せられると、....商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 質屋の通帳出版社: ConTenDo概要: 京都に住んでゐた頃、たしか花時の事だつたと思ひます。 私が縁端でぼんやり日向ぼつこをしてゐると、女中が来客の名刺を取次いで来ました。 名刺にはK――とありました。 K氏は私には初めての客でしたが、友人H氏の弟子筋にあたる人で、その頃新進作家として一寸売出してゐました。 K氏は座...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 石を愛するもの出版社: ConTenDo概要: 一 いろんなものを愛撫し尽した果が、石に来るといふことをよく聞いた。 屠琴塢は多くの物を玩賞したが、一番好きなのは石だつた。 一生かかつて奇石三十六枚を貯へ、それを三十六峰に見立てて、一つびとつ凝つた名前をつけ、客があるとそれを見せびらかせたものださうだ。 鄭板橋はま......商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 桜の花出版社: ConTenDo概要: 桜こそは、春の花のうちで表現の最もすぐれたものの一つであります。 しとしとと降り暮らす春の雨の冷たさに、やや紅みを帯びて悲しさうにうなだれた莟といふ莟が、一夜のうちに咲き揃つて、雨あがりの金粉をふり撒いたやうな朝の日光のなかで、明るくほがらかに笑つてゐる花の姿は、多くの植物に見る... ...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 春菜出版社: ConTenDo概要: 一 郷里にゐる弟のところから、粗末な竹籠の小荷物が、押潰されたやうになつたまま送りとどけられて来た。 その途端、鼻を刺すやうな激しい臭みが、籠の目を洩れて、そこらにぷんぷんと散ばつて往つた。 それを嗅ぎつけると、私はほくそ笑みながら、すぐに自分の手で荷物の縄目... ...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 無学なお月様出版社: ConTenDo概要: 野尻精一氏は奈良女子高等師範の校長である。 東京にゐる頃にはさうも思はなかつたが、住むでみると奈良は景色がよく、景色がよくないところには定つて古蹟があつて、遊ぶには恰好な土地だなと野尻氏は思つた。 それにつけて、かういふ結構な土地に来て、鹿のやうに柔和で、鹿のやうに尻つ尾の短い女学......商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 価出版社: ConTenDo概要: 大阪に大国柏斎といふ釜師の老人が居る。 若い彫塑家大国貞蔵氏の父で、釜師としての伎倆は、まづ当代独歩といつて差支へあるまい。 伎倆のすぐれてゐる割合に、その名前があまり世間に聞えてゐないのを惜しがつた知合の誰彼が、 『大阪にくすぶつてゐたのではしようがあるまい。 いつそ思ひきつて東....商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 茶立虫出版社: ConTenDo概要: 茶立虫 薄田泣菫 静かな秋の一日、午後三時頃の事でした。 家の者はみな遊びに出かけたので、留守居に残された私は部屋に坐つたまま、背を壁にもたせて、何を考へるでもなし、ひとりつくねんとしてゐました。 煤けた壁の落ちつきが、冷え冷えと背を伝はつて、しつとりと心の底まで滲みとほる......商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 木犀の香出版社: ConTenDo概要: 「いい匂だ。 木犀だな。」 私は縁端にちよつと爪立ちをして、地境の板塀越しに一わたり見えるかぎりの近処の植込を覗いてみた。 だが、木犀らしい硬い常緑の葉の繁みはどこにも見られなかつた。 この木の花が白く黄いろく咲き盛つた頃には、一二丁離れたところからでもよくその匂が嗅ぎつけられるの....商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 石竹出版社: ConTenDo概要: この頃咲く花に石竹があります。 照り続きで、どんなに乾いた磧にも、山道にも、平気で咲いてゐるのはこの花です。 茎が折れると、折れたままにその次の節からまた姿勢を持ちなほして、伸びてゆくのはこの花です。 細くて、きやしやで、日盛りのあるかないかの風にも、しなしなと揺れるほどの草ですが、....商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 水仙の幻想出版社: ConTenDo概要: すべての草木が冬枯れはてた後園の片隅に、水仙が五つ六つ花をつけてゐる。 そのあるものは、肥り肉の球根がむつちりとした白い肌もあらはに、寒々と乾いた土の上に寝転んだまま、牙彫りの彫物のやうな円みと厚ぽつたさとをもつて、曲りなりに高々と花茎と葉とを持ち上げてゐる。 白みを帯......商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 侘助椿出版社: ConTenDo概要: 一 私は今夕暮近い一室のなかにひとり坐ってゐる。 灰色の薄くらがりは、黒猫のやうに忍び脚でこつそりと室の片隅から片隅へと這ひ寄つてゐる。 その陰影が壁に添うて揺曳くする床の間の柱に、煤ばんだ花籠がかかつてゐて、厚ぼつたい黒緑の葉のなかから、杯形の白い小ぶ... ...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 幽霊の芝居見出版社: ConTenDo概要: 欧洲大戦の時、西部戦線にゐた英軍の塹壕内では、死んだキツチナア元帥が俘虜になつて独逸にゐるといふ噂が頻りにあつた。 前線で俘虜になつた独逸兵のなかには、伯林の俘虜収容所で怖しく背の高い元帥の後姿を見かけたといふものが少くなかつた。 オウクネエ島附近で溺死した元帥が蘇生つた筈もないが......商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 手品師と蕃山出版社: ConTenDo概要: 手品といふものは、余り沢山見ると下らなくなるが、一つ二つ見るのは面白いものだ。 むかし、備前少将光政が、旅稼ぎをする手品師の岡山の城下に来たのを召し出して、手品を見た事があつた。 一体大名や華族などといふものは、家老や家扶たちの手で、始終上手な手品を見せつけられてゐるものなの......商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 森の声出版社: ConTenDo概要: 自分は今春日の山路に立つてゐる。 路の両側には数知れぬ大木が聳え立つて、枝と枝との絡みあつたなかには、闊葉細葉がこんもりと繁つて、たまたまその下蔭を往く山番の男達が、昼過ぎの空合を見ようとしたところで、雲の影ひとつ見つけるのは、容易な事では無い。 何といつても、承和の帝から禁山の御......商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 初蛙出版社: ConTenDo概要: 一 古沼の水もぬるみ、蛙もそろそろ鳴き出す頃となりました。 月がおぽろに、燻し銀のように沈んだ春の真夜なか時、静かな若葉の木かげに立ちながら、あてもなくじっと傾ける耳に伝わる仄かなおとずれ―― 「くる……くる……くる……」 と、古沼の底から生れた水の泡が、円く... ...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 若葉の雨出版社: ConTenDo概要: 野も、山も、青葉若葉となりました。 この頃は――とりわけて今年はよく雨が降るやうです。 雨といつてもこの頃のは、草木の新芽を濡らす春さきの雨や、もつと遅れて来る梅雨季の雨に比べて、また変つた味ひがあります。 春さきの雨はつめたい。 また梅雨季の雨は憂鬱にすぎますが、その間にはさまれた...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 雨の日に香を燻く出版社: ConTenDo概要: 雨の日に香を燻く 薄田泣菫 一 梅雨まへには、今年はきつと乾梅雨だらうといふことでしたが、梅雨に入つてからは、今日まで二度の雨で、二度ともよく降りました。 私は雨の日が好きです。 それは晴れた日の快活さにも需めることの出来ない静かさが味はは... (本...商品価格: ¥0(税込)