近松秋江
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タイトル: 伊賀、伊勢路出版社: ConTenDo概要: 私には、また旅を空想し、室内旅行をする季節となつた。 東京の秋景色は荒寥としてゐて眼に纏りがない。 さればとて帝劇、歌舞伎さては文展などにさまで心を惹かるゝにもあらず、旅なるかな、旅なるかな。 芭蕉も 憂きわれを淋しがらせよ閑古鳥 といひ、また 旅人と我名呼ばれん初しぐれ ....商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 伊賀国出版社: ConTenDo概要: 伊賀國は小國であるけれども、この國に入るには何方からゆくにも相應に深い山を踰えねばならぬ。 自分はいつも汽車の中に安坐しながら、此の國を通過するのであるが、西から木津川の溪谷を溯つて來るのもいゝし、東から鈴鹿山脈を横斷して南畫めいた溪山の間を入つて來るのも興が饒い。 況んや俳聖芭蕉......商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 別れたる妻に送る手紙出版社: ConTenDo概要: 拝啓 お前――別れて了ったから、もう私がお前と呼び掛ける権利は無い。 それのみならず、風の音信に聞けば、お前はもう疾に嫁いているらしくもある。 もしそうだとすれば、お前はもう取返しの付かぬ人の妻だ。 その人にこんな手紙を上げるのは、道理から言っても私が間違っている。 けれど、私は...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 箱根の山々出版社: ConTenDo概要: 夏が來て、また山の地方を懷かしむ感情が自然に私の胸に慘んでくるのを覺える。 何といつても山を樂しむのは夏のことである。 曾遊の夏の山水風光を、かうして今都會の中にゐて追憶して見るさへ懷かしさに堪へないで、魂飛び神往くの思ひがするのである。 日光の奧中禪寺湖の短艇の上で遠く仰望し....商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 霜凍る宵出版社: ConTenDo概要: 一 それからまた懊悩と失望とに毎日欝ぎ込みながらなすこともなく日を過していたが、もし京都の地にもう女がいないとすれば、去年の春以来帰らぬ東京に一度帰ってみようかなどと思いながら、それもならず日を送るうち一月の中旬を過ぎたある日のことであった。 陰気に曇った冷たい空... ...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 狂乱出版社: ConTenDo概要: 一 二人の男の写真は仏壇の中から発見されたのである。 それが、もう現世にいない人間であることは、ひとりでに分っているのだが、こうして、死んだ後までも彼らが永えに、彼女の胸に懐かしい思い出の影像となって留まっていると思えば、やっぱり、私は、捕捉することの出来ないよう... ...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 黒髪出版社: ConTenDo概要: 一 ……その女は、私の、これまでに数知れぬほど見た女の中で一番気に入った女であった。 どういうところが、そんなら、気に入ったかと訊ねられても一々口に出して説明することは、むずかしい。 が、何よりも私の気に入ったのは、口のききよう、起居振舞いなどの、わざとらしくなく物... ...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: うつり香出版社: ConTenDo概要: そうして、それとともにやる瀬のない、悔しい、無念の涙がはらはらと溢れて、夕暮の寒い風に乾いて総毛立った私の痩せた頬に熱く流れた。 涙に滲んだ眼をあげて何の気なく西の空を眺めると、冬の日は早く牛込の高台の彼方に落ちて、淡蒼く晴れ渡った寒空には、姿を没した夕陽の名残りが大きな、... ...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 雪の日出版社: ConTenDo概要: あまり暖いので、翌日は雨かと思って寝たが、朝になってみると、珍らしくも一面の銀世界である。 鵞鳥の羽毛を千切って落すかと思うようなのが静かに音をも立てず落ちている。 私はこういう日には心がいつになく落着く。 そうして勤めのない者も仕合せだなと思うことがある。 私たちは門を閉めて...商品価格: ¥0(税込)