水野仙子
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タイトル: 夜の浪出版社: ConTenDo概要: どちらから誘ひ合ふともなく、二人は夕方の散歩にと二階を下りた。 婢が並べた草履の目に喰ひ入つてゐた砂が、聰くなつてゐる拇指の裏にしめりを帶びて感じられた。 『いつてらつしやいまし。 』と、板の間に手をつく聲が、しばらく後を見送つてゐることゝ、肩のあたりにこそばゆい思をしながら、あ....商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 嘘をつく日出版社: ConTenDo概要: 患者としてはこの病院内で一番の古顏となつたかはりに、私は思の外だんだん快くなつて行つた。 もう春も近づいた。 青い澄んだ空は、それをまじまじと眺めてゐる私に眩しさを教へる。 さうしてついとその窓を掠めて行く何鳥かの羽裏がちらりと光る。 私はむくむくと床をぬけ出して、そのぢぢむさ...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 白い雌鷄の行方出版社: ConTenDo概要: 一 年老いた父と母と小娘二人との寂しいくらし――それは私が十二の頃の思出に先づ浮んで來る家庭の姿であつた。 總領の兄は笈を負うて都に出てゐるし、やむなく上の姉に迎へた養子は、まだ主人からの暇が出ないで、姉と共に隣町のお店に勤めてゐた。 町でも繁華な場所に家屋敷... ...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 四十余日出版社: ConTenDo概要: 一 炬燵にうつ伏したまゝになつてゐて、ふと氣がついてみると、高窓が青白いほど日がのぼつてゐた。 びつくりして飛び起きてお芳はそこらを見廻した。 子供の聲やら荷馬車の轍の音やら、表どほりはもうがやがやしてをるらしいのに、店の者もまだ前後不覺に寢入つてゐる。 清治とい... ...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 神楽阪の半襟出版社: ConTenDo概要: 神樂阪の半襟 水野仙子 貧といふものほど二人の心を荒くするものはなかつた。 『今日はお精進かい?』とでも、箸を取りかけながら夫がいはうものなら、お里はそれが十分不足を意味してるのではないと知りながら、 『だつて今月の末が怖いぢやありませんか。 』と、忽ち怖い顏になつて......商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 輝ける朝出版社: ConTenDo概要: さうだ、私はそれを忘れないうちに書きとめて置かう。 この輝いた喜の消え去らぬうちに、このさわやかな心持のうすれゆかぬうちに……私はこの朝の氣持を、決して忘れる事はないであらうけれども、だからといつて書きとめて置く事の決して無益なことではあるまいと思ふ。 却つて私の病に於ける無爲の時......商品価格: ¥0(税込)