正宗白鳥
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タイトル: 避病院出版社: ConTenDo概要: 町村の自治制が敷かれてから間もないころであつた。 私の父は選ばれて村長になつた。 父の性質としてかういふ煩い役務は好まなかつたのであるが、人物に乏しい僻村では他に適當な候補者が見つからないので、據所なく選ばれ據所なく承諾したのらしかつた。 名譽職だといふので、しるしだけの俸給に....商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 孫だち出版社: ConTenDo概要: 大至急話したいことがあるから、都合のつき次第早く來て下さいといふ母方の祖母さんの手紙を見ると、お梅はどんな大事件かと、夕餐の仕度を下女に任せて、大急ぎで俥に乘つて、牛込から芝の西久保まで驅け付けた。 潛り戸を入つて敷石傳ひに玄關へ行くまで、耳を澄ましたが、家の中は何時ものやうにひ... ...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 仮面出版社: ConTenDo概要: 一 五月も末になつてゐるのに、火鉢の欲しいほどの時候外れの寒さで、雨さへ終日降りつゞいた。 午過ぎから夜具を被つて横になつて、心を落着けようと努めてゐた馬越は、默してぢつとしてゐればゐるほど、頭の中の狂暴に堪へられなくなつた。 其處等にある家具を片端から打壞すか、誰れか......商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 母と子出版社: ConTenDo概要: 封筒の中には長いお札が疊み込まれてあつた。 それには××八幡宮玉串と大きな文字が刷られて、その傍に「辰の歳の男疳性平癒」と書いてあつた。 何事を云つて來たのかと、案じながら手紙を開いたおたねは、お札を見るとくす/\獨り笑ひをした。 お札の外に御供米が四五粒包まれてゐた。 ...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 幼少の思ひ出出版社: ConTenDo概要: 今から二十年あまりも前の事である。 ロンドンからエデインボロウに向ひ、グラスゴーだのリバプールだのを経て、ロンドンへ帰るまでに、沙翁の故郷であつたストラツトフオード・オン・エボンへ立ち寄ることにした。 途中の田舎町で、汽車の乗り換へを間違へたりして、まごまごしてゐた。 それで、田舎の....商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 見て過ぎた女出版社: ConTenDo概要: 「戀とは綺麗なことを考へて汚いことを實行するものだ。」と、西洋の誰れかが云つたやうだが、若し誰れも云はなかつたとしたら、おれがさう云はうと、日比野は思つてゐた。 彼れは早熟であつたので、八九歳の頃から男女關係についてひそかに空想を描きだしてゐた。 十一二歳の時分に「梅暦」を讀ん......商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 論語とバイブル出版社: ConTenDo概要: 吾人はアレキサンダー、シーザー、ナポレオンなど所謂英雄なる者の社会に存在したことを喜ばぬと共に、基督、釈迦、孔子など所謂聖人なる者の出現を謳歌せぬのである。 世の識者という中には、武人的英雄物質的英雄の人世に不幸を増したことを認めながら、一方に聖人が人間を救済し、現世に幸福を下し... ...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 花より団子出版社: ConTenDo概要: 洗足池畔の私の家の向ひは、東京近郊の桜の名所である。 私は、終戦の前年軽井沢に疎開して以来十数年間、毎月一度は必ず上京してゐたが、盛りの短い桜時には、一度も来合せたことはなかつた。 この頃、こゝに居を定めることになつたので、久振りに花の盛りを朝夕たつぷり見ることが出来た。 急速に温く....商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 月を見ながら出版社: ConTenDo概要: 縁側に蹲んで、庭の樹の葉の隙間から空を仰ぐと、満月に近い月が、涼しさうに青空に浮んでゐる。 隣家から聞えて来るラジオは流行唄を唄つてゐる。 草叢には虫の音が盛んで、向うの松林には梟が鳴いてゐる。 さういふいろ/\な物音を圧し潰さうとするやうに、力強い波濤が程近いところに鳴つてゐる。 ...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 心の故郷出版社: ConTenDo概要: 暮れに、私の家の近所を散歩してゐると、東京工業大學の門前でカミュの『誤解』上演と記されたお粗末な紙看板が目にとまつた。 演劇部と記されてゐるので、この學校にでも芝居なんかやる學生があるのかと不思議に思つた。 私は學校芝居は殆んど見たことはないし、見ようと思つたこともなかつたのだが、......商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 水不足出版社: ConTenDo概要: この土地には水が缺乏してゐる。 震災後は殊にひどくなつた。 地盤が動搖して水脉が狂つたのか、多くの井戸が涸れてしまつた。 昔から、どんな旱魃が續いた時にも、水量の減じたことのないと云はれてゐた山ノ手の大井戸でさへ、一月十五日の二度目の大地震のためにすつかり調子を狂はせて、稍々もすると....商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 昔の西片町の人出版社: ConTenDo概要: 「日本の文壇は今全く不良少年の手に落ちました。 何等の教養も何等の傳統もない不良少年の手に落ちました。」と、博士はその華やかであつた青年時代の、唯一の名殘りであるやうな、美しい眸を輝かしながら、嘆聲を洩らすのを聞く時には、雄吉は不良少年の手に落ちた文壇を悲しむよりも、博士自身に對し... ...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 素材出版社: ConTenDo概要: 私は發表する當てのないのに物を書いたことはない。 また材料を得るために旅行をしたり讀書したりしたことはない。 雜誌などに頼まれて何か書かうとして机に向つて筆を採つてから、さて材料はどれにしようかと考へるのである。 さうすると、いろ/\な材料が頭に浮んで來る。 幾十となく思ひ浮ぶ...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 雨出版社: ConTenDo概要: 杜若の蔭に金魚が動いてゐる。 五月の雨は絶え間なく降つて居る。 私は帝國ホテルの廻廊の椅子に腰をおろして、玻璃越しに中庭を眺めてゐた。 いろいろな刺戟から免れて心の閑かな時であつた。 私は下宿屋に於いても温泉に於いても、雨の降る日には屡々少年の頃、森田思軒の譯文で讀んだア...商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 玉の輿出版社: ConTenDo概要: 時節外れの寒い風が吹いた。 五人もの子供を抱へてゐながらビクともしない働きものゝおたまは、薄明りが差すと、誰れもまだ起きない前に寢床を離れて、手早く衣服を着替へて、藁草履を突掛けて、裏木戸から水汲みに出掛けた。 風呂桶へ四五荷も汲んで、使ひ水をも大きな水瓶に滿すと、肥つた身體にべつ......商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 奇怪な客出版社: ConTenDo概要: こんな珍しい話がありますよ。 あるホテルであつたことですがね。 ある晩、そのホテルの帳場へ、築地の吉田といふ待合から電話が掛つて、「今夜わたしとこのお客がそちらへ行くから、泊めてくれないか。」といふんです。 「何といふ方だ。」ときくと、名前は今いへないといふ返事なので、それぢや....商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 吉日出版社: ConTenDo概要: 「自分に關しては、たゞ一つだけ確信してゐることがある。 ……疾かれ遲かれ、ある吉日に自分は死ぬるのだ。」 「私は、それ以上の確信を有つてゐる。 私はある惡日に生れたのだ。」 年少の頃、『浴泉記』といふロシア小説の飜譯を讀んだ時に、私はかういふ會話のやり取りに心を打たれたことがあ......商品価格: ¥0(税込)
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タイトル: 軽井沢にて出版社: ConTenDo概要: 長谷川伝次郎氏の『ヒマラヤの旅』には、二万尺以上の霊峰を跋渉した時の壮快な印象が記されている。 古来、現世の罪や穢れを洗い清めるために参詣すべき聖地として印度人に憧憬されていたカイラースの湖畔などは、この世のものとは思われないそうである。 そこは、一本の樹木もない茫々たる土塊のなか......商品価格: ¥0(税込)